よるのおわり

日々を愛でる

実験室

実験室の中に犬がいた.いつのまに,どうやって,入ってきたのだろう…? 何にせよ,追い出さねばなるまい.狂犬病は怖いから,噛まれないように注意して.

手近にあったモップをつかみ,机の下にうずくまる犬に向ける.部屋の中は薄暗く,黒いかたまりがぼんやりと見える.そういえばさっき,実験中,ふさふさしたものが足にからみついてきたような気がしたのも,きっとこの犬だったのだ.部屋が薄暗いから気づかなかったのだ.

犬といろいろ格闘したような気がして,気づくと私は犬に馬乗りになっていた.犬と思ったのは犬ではなくて,熊だった.この大きさだと,子熊だろうか.黒々とした毛はふさふさしていて,毛を通して触れる皮膚はほんわりと温かい.熊は私の手を噛もうとし,私はそれを防ぐために上体をぐっと屈曲させて,熊の鼻先を噛みつける.

残虐さと温かさが一緒くたになっていた,夢.

火花

夜中,車の助手席に乗っていて,前方に街の灯が見えていた.熱帯の道路が日中ものすごく熱せられて,夜になってもまだ熱を保ってもわもわしているような空気だった.

前方を走っていた車の運転席の窓から,突如,タバコが道路に捨てられて,まだ熱いアスファルトの上を,オレンジ色の火花が散っていった.

クリームチーズ

駅前の地産品売り場で、おいしそうなクリームチーズが半額になっていたのを、しばし迷ったのちに、買うことにする。あわせて、オレンジピールとレーズンが入ったハード系の大きなパンも買ってしまう。朝なんかにも食べれば、食べきれるはず。

ゲストハウスのキッチンでパンをごりごり切り分けて、トースターはなかったから、フライパンで両面をカラッと温めて、紙に包む。すくいとったたっぷりのクリームチーズをラップに包んで、さっき食べて洗ったティラミスの空き容器に収納。カバンの中でつぶれないように。

動物園についたら、丘の上の端っこ、動きが少なくて地味だからか人があまり集まっていないエゾタヌキ(見えればとても可愛い)のところに行って、ベンチに掛けてお昼をとりだす。ヨーグルトのさじでパンにクリームチーズを塗って、初夏の涼しい日陰の下で、ぱくついていた。

町内放送

朝昼夕に町内放送が鳴るところに住んでいる.

私は朝の放送がお気に入りで,これを聞くとなんだか心が休まる.6時に鳴るからゆっくり寝ていられない…と妻は言うけれど,朝型の私には問題ではないのだった.ちょっと早めに起き出してお仕事をしている私は,この放送を聞いて,妻を起こしに行くとともに,朝ごはんを作りはじめる.

午前中のお仕事を終わらせて,ふーと息をつきながら昼食を作っていると,お昼の放送が聞こえてくる.キッチンの窓を開けていると,放送は鮮明に聞こえるのだった.町歌を,いつのまにか覚えてしまっていて,知らないあいだにフンフンと鼻歌をうたっていることがある.ああ,おそろしいおそろしい…

夕方の放送は,ちょっと微妙な時間にあって,聞き逃すことも多いけれど,この放送がある頃にはちょうど日が暮れてきていて,見回した辺りの光が強さを失っていることに気づく.お仕事の進まなかった日には,ああダメな1日だった…と思い,そうでない日には,そろそろ夕飯を作ろうかな,と思う.

長い出張から帰ってきて,この町内放送を聞くと,やっと帰ってきた…と感慨深くなる.またしばらく留守にするから,耳さみしい期間がつづいてしまうな.

>10年ぶりの自動車

こちらに来てから,必要にかられて,自動車に乗り始めた.免許を取ったのは10年以上前で,本当に本当に,それ以来いっさい自分で運転したことはなかった.

最初は,妻に連れられて,2-3回ほど海浜公園の駐車場で練習して,そのあと公道に出た.自動車には乗っていなくても,バイクやロードレーサーには乗っていたから,交通の流れの勘みたいなものはわかる.車特有の幅や操作などを思い出すだけで,自分でも驚くほど簡単に,ふたたび車に乗ることができたのだった.

自分でペダルを回さなくてもあんなに速いスピードが出るし,向かい風でも雨が降ってもへっちゃらで,迷惑そうな車に横をびゅんびゅん追い越される二輪車と違って,どっしりした余裕みたいなものがある.

目的地に急ぎたくなる気持ちもわかるけれど,ロードレーサーと比べたって,アクセルを踏み込むだけでこんなにスピードが出るなんて…! という感激に浸りながら,今はなんだかかなりの安全運転をしている.