よるのおわり

日々を愛でる

アリジゴク

大きくなってからは比喩上の蟻地獄にしか出会っていないけれど,ふいに,生物としてのアリジゴクのことを思い出した.

実家が今のところに越してくる前,家は団地の1階にあって,その軒下は子供の頃のお気に入りの場所のひとつだった.軒下にはサラサラした砂がたまっていて,そのなかにアリジゴクがいた.

点々と広がるすり鉢状のくぼみから,形がきれいで新鮮そうなものを選び出して,注意深く砂をかきわけてアリジゴクを掘り出してくる.掘り出した個体は平らな砂の上に置いて,またずずっと砂のなかに潜っていくのを眺めていた.

ベージュ色の細かい砂の感覚と,ぽてっとしたアリジゴクの体の丸みと,軒下の秘密の場所のような安心感を,いまでもぼんやり覚えている.アリジゴクを探しながら,軒下から雨が降っているのを眺めていたときもあったような気がする.