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よるのおわり

日々を愛でる

2013年に読んだ本

今年読んで印象深かった本を振り返ってみる.

いちばん,と言われるととても困るけれど,あえて挙げるなら,吉田篤弘小さな男*静かな声』になるのかな.さらさらと流れていくのっぺりした日常にアクセントをつけて,無機質なさみしさと共存していくふたりの視点が,ほほえましくて,ゆったりおだやかな気持ちになっていた.


これとは対照的に,迫力に飲み込まれそうな作品もいくつか.
渡辺一史こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』は,人から勧められて,大学の図書館で借りてきて,論文書きの合間にちらちら読んでいたら止まらなくなって,その日のうちに読みきってしまった.どこから切り込んで良いのかわからないけれど,すくなくとも,さまざまに交錯する視点を丁寧に描き切った著者の方のやさしさと悩みは,こちらにも十分に伝わってきた.

窪美澄ふがいない僕は空を見た』も,ある日の午前中に読みきってしまった本で,その日はそれ以降まったく仕事が手につかなかった.生と性のどうにもならない欠落を抱えて,それでもなお生きていかなければならない「ふがいなさ」を,正面から見つめてこちらに叩き込んでくる強さと,そしてやさしさがあって.

車谷長吉赤目四十八瀧心中未遂』は,出張にでかける電車と飛行機のなかで一気に読んでしまった.何を考えているかわからない他人の心を自分はどこまで確信できるか.逆に自分の心はどこまでが確実に見透かされているのか.そうしたざらざらした緊張感が,ふとした調子にとめどなく滲み出てくる.これはとんでもないものに出会ってしまった,と思った.


優雅に組み上げられたストーリーを読んで,あぁいいなあ…と思ったのは,(あからさまな階級差別や旧時代的なジェンダー規範がごく自然に語られている点はひとまず置いておいて),谷崎潤一郎細雪』とジェーン・オースティン高慢と偏見』だった.それぞれ日本と英国の裕福な家庭に育った姉妹たちの結婚というテーマを軸に,日常の様子が緩急取り混ぜてつづられていく.これといって物語の中心になる事件がおこるでもないのだけれど,きょうだいのあいだや異性のあいだで微妙にゆれ動く心や感情の描写が本当に見事で,読み終わった後で,もう一度丹念に登場人物たちの気持ちのうつろいを追ってみたくなる.


良い本にはそれぞれの良さがあって,こうして取り上げてみるのもなかなか難しいけれど.来年もすてきな本にたくさんめぐり逢えますよう.