よるのおわり

日々を愛でる

サイコロ入れ

サイコロを入れる箱として認識しているプラスチックの容器があった.手の平におさまるくらいのサイズで,側面のいちばん小さい1面の抜けた,平べったい長方形の入れ物がふたつ,向かいどうしの入れ子状にかみ合うようになっている.

たしか,年上のいとこの暮らする父の実家から送られてきた玩具の一揃いのなかにあったもので,このやわらかいプラスチック容器に,大小さまざまなサイコロが入っていた.小学生かもっと小さいとき,それを見て素敵な印象をいだいて,他の玩具は長い時間のあいだに捨ててしまったけれど,これだけはいまだに実家にとってある.それに,大人になった今でも,サイコロを見るとなんだか気持ちがワクワクするのも,おそらくはこのときの印象が大きく影響している.

その昔から,他に類のない,おかしな形をしているなと思っていた.それでも,やわらかくて半透明のプラスチック素材と,入れ子を出し入れするときの感覚が大好きで,なんだか素敵な,サイコロを入れる容器として,いままで認識していた.

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それが先ほど,下宿先に帰ってくると,集合郵便受けのところにこの同じ容器の色違いが捨ててあった.人生で出会った2つめの同型容器である.わあ懐かしいと思うと同時に,そのとき心にひらめいたものがあった.

つまり「これはタバコ入れなのだ」ということだった.

サイズ,入れ子の出し入れ方向,どこを鑑みてもそうとしか考えられない.調べるまでもないと思ったけれど,誤解していたら嫌だったので検索してみた.「ソフトプラスチック シガーケース」というのがその名前だった.

この歳になっても,いまだに目の覚めるような,こうした気づきの瞬間があるということ.それが無性にうれしかった.