よるのおわり

日々を愛でる

2014年に読んでおもしろかった本

2015年に読んでおもしろかった本」を書いた後に,2014年にはこれができていなかったことを思い出したのだった.
というわけで,書き出してみる.そうして納得.数が多すぎて,どうやってまとめよう…と悩んで,そのままにしていたのだった.


武田百合子富士日記
生活と,死の記録であると思う.ポコの死,あいつぐ東京の知人の死,事故,そして終わりに近づくにつれてどうしようもないほど濃厚にただよってくる泰淳の死の気配…しかし生活はそうした死を越えてつづいていく.百合子さんと花さんとタマと,3人が泰淳の死を越えて,生活は続いていくし,続けていかなければならない.


ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』
これまでたどってきたものを裏切りつづけながら,自分の人生にはなんの重さもなかったと半ば諦めながら呆然とし,さらなる裏切りへ足を踏み出していくサビナの生き方が大好き.キッチュなもの,山高帽,技師との情事,カラス,死の丘,…いろんなシンボルが象徴的に配置されている.総じて,スルメのような作品だと思う.読めば読むほど,いろんな視点からいろんな解釈が可能になってくる.


山本文緒恋愛中毒
かわいくていじらしい,といろんな箇所で思った.愛されることを欲し,愛されることによって自信を得て,それが生活のすべてになってしまうような,私にはなじみがない恋愛観の,喜びや苦しみ.淡々としているようで,心の底には狂気に近い狂おしさが流れている.


イアン・マキューアン『贖罪』
いかなる解説もネタバレにつながってしまいそうで怖いのだけれど,これぞ小説を読む楽しみ,という快感をおそろしいほど感じさせてくれる作品.これは本当にすごい.


二村ヒトシ『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』
身に染みる.単行本の『恋とセックスで幸せになる秘密』ではなく,こちらを読んでもらいたい.増補された部分で,本文で書かれた視点に沿ってもう一度メタに本文を眺めて,そこからさらにパラダイムシフトを起こしているというか…


ミラン・クンデラ『不滅』
テーマは「永遠」とか「不滅」ということなんだけど,私は「孤独」の話として読んだような気がする.アニェスとローラ,みんなはどちらを好むだろう?自分はアニェス.あるいはもっと言えば,アニェスの父.ただ,この本を読むような人たちはそもそも前者しか挙げないような気もする.いろんな物語がからみあっているけれど,特に姉妹のあいだの葛藤と,シュールレアリスティックなプロットや情景.すばらしい.


カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』
悲愴で無力感にあふれて哀しくて,でもあったかくてどこか懐かしい,全体的にそんな印象.生きている,という,そのことは,長い長い時間と,さまざまな心動かされる出来事からなっていて,それは決して誰にも奪われはしなくて,そこに生きているということの本質がある.


川上弘美『蛇を踏む』
とらえどころのないふわふわとした心の揺れ動きや暮らしが,描かれている.読者は自分の輪郭が薄れていくような気分になり,揺れている登場人物たちは揺れを揺れるにまかせ,作者もけろんとしてとぼけた顔をしている.


長嶋有ジャージの二人
ゆっくり流れる時間をけだるく,でも同時に愛おしく眺めるような,心の落ち着きがある.描かれる人びとがわざとらしくなく自然にチャーミングで,良い.人と人のあいだで葛藤や不快を感じたりしているのに,誰もが可愛らしく見えてしまう.


イサク・ディネーセン『バベットの晩餐会
収録されている2篇とも丁寧に織り込まれた正統派の物語って感じで,読み終わったあと思わず感嘆のため息をついてしまうような…異なる視点と偶然がクライマックスに向かって融け合っていくさま,見事としか言いようがない.


星野博美『のりたまと煙突』
気負わないのんびりさが表に出つつも,根底にあるのは,前向きなあきらめと,自分の弱さをみつめる強さであると思う.目のつけどころ,やさしさ,厭世観,内向性,文体,すべてが好み.名前,ホテル・カリフォルニア,赤い手帳,白猫,金色の髪,よくばりな記憶,が好きかな.