よるのおわり

日々を愛でる

ヒノキ

空港で荷物の重さを計測したら、8キロくらいあった。それを背負って、終電の終着駅からひたすら歩く。なんせ終バスが20時にあるようなところで、駅前にタクシーが停まっているわけではもちろんなく。目指す宿は5-6キロ先で、ウェブサイトの案内には徒歩1時間と書いてあった。

 

夏の夜の涼しい風がさあさあと吹いて、星がたくさん見えて、両脇の田んぼからは蛙の声が響いていた。ところどころで電灯が足元を明るく照らし、ふと気づくと空には、雲を透かして、真っ赤なような大きな半月が浮かんでいた。

 

電車に乗る前に買っておいた麦茶をあおりながら、すこし呑みすぎた日本酒の酔いをさますようにして。車もほとんど通っていないから、歩道よりも平らで歩きやすい車道をひたひた歩く。やはり結局1時間歩いて、もっと山奥に近づいた川のせせらぎが聞こえるところに来て、目指す宿にやっとたどりつく。

 

ひとしきり説明を受けて、じっとりへばりついた汗を流そうと浴室に入ると、意外にもヒノキの大きな浴槽が現れて、貸し切り状態で、重たい荷物に痛めつけられた身体をゆっくり伸ばしたのだった。

 

そろりそろりと部屋に帰り、すでに日付が変わっていることを確認して、すぐに充ち足りた気分で眠りに落ちた。