よるのおわり

日々を愛でる

歯医者のあとの太陽

歯医者に行って,虫歯を削ってもらった.大学生だったときの不摂生がたたってか,虫歯が次から次へと現れる.20代の前半から,2ヶ月に一度はかならず歯医者にかかっているような,そんな感覚.

そんなわけで,あのどうにもこらえがたい音や振動を,やりすごす術を身につけてしまった.というか,慣れてしまった.歯医者の診療台に座ると眠くなってくることも多く,あるときには本当に眠ってしまったこともあった.(もしかしたら,そういう無意識の防御反応なのかもしれない)

今回は,しかし,久しぶりだったためか,痛くはないのだけれど,あの振動や音がどうにも怖くてしかたない.額や顎が引けてしまって,治療中に注意を受ける.気を紛らわすために治療中にいつも思い浮かべているイメージ (『緑の家』のドン・アンセルモが早朝の砂漠で馬に乗り狂う場面) や,今回新たに発見したイメージ (台所に置いた段ボールのなかに猫がちょこんと座っている場面) も,とんと効果がない.

しかし,途中で,歯が硬いことを思い出してからは,怖さが消えた.それまでは,ドリルの先端がやわらかい歯髄に貫通してくるイメージばかり頭に再生されていたのだけれど,ドリルのひと突きで象牙質が貫通するほど歯はヤワではないのだなと唐突に理解して,なんだか一気に落ち着くことができたのだった.


さて帰ろうとすると,自転車のチェーンを開ける鍵を家に忘れていたことに気づく.歯医者の駐車場に停めた,後輪のロックされた自転車を抱えながら家に帰ったのだった.その途中,スーツを着て自転車に乗ったヨーロッパ系の宣教師が話しかけてくれて,しばし会話した後,彼は私に英会話のチラシを渡して,去っていった.太陽がまぶしい夕方だった.