よるのおわり

日々を愛でる

靴と素足

電車の隣に座った夫婦が、ふと床を見たあとに話をはじめ、床に置いていたリュックを取り上げる。何事かと思って私も床を見ると、水がどこからか流れてきている。慣性の法則にしたがって、電車の出発や停止にあわせて、あっちに行ったりこっちに来たり。

どこが水源なのだろうと向こうのほうを見るけれど、それらしいものはない。ただ、水流の真ん中のところ、水の量がもっとも多い場所に、ピンクのスニーカーを履いた女性が座っている。スニーカーの足の裏は、ばっちり水源の水たまりを踏んで、しかし本人は一向に気にしていない様子。

実はマーメイドなのではなかろうか、と思いながら電車を降りた。

 

帰り道、お墓のところを通ると、10メートルほど手前を、喪服を着たおばあさんが歩いている。黒い靴は束ねて片手に持ち、素足で歩いている。真夏のこの昼下がりに、熱せられたアスファルトで足の裏をやけどしてしまうのではないかとらひやひやする。

道のかどのところに、おじいさんが2台の自転車を引いてくるのが見え、おばあさんはそこに合流した。おじいさんが放った黒いビーチサンダルを履きながら、おばあさんはハンドバックを荷台に置き、自転車にまたがったところを、私は通り過ぎていった。