よるのおわり

日々を愛でる

ススキ

季節外れの台風のような強い風が吹いていて,もう少しで雨が降り出すところだった.

海に面した駅に電車が止まって,山側のドアが開いて,高い石垣の壁の手前に道路があり,道路と線路を仕切るガードレールがあって,そのガードレールの下から枯れたススキが,強い風にあおられて,どうどうとなびいていた.1 m以上はありそうな,数千本のススキが,シュラシュラとすさまじい音を立てて.

雨はまだ降り出していないけれど,開いたドアから吹き込んできた風は,濃い灰色で,生暖かく,湿っていた.停車時間の数十秒だけ,そうした圧倒的なリアリティが身を包み,ドアが閉まると何もかもがきれいに消えた.停車時間のあいだ,ずっと,開いたドアから外を見つめていた.

美しいと思った.

高瀬川

銭湯の鏡に貼ってある広告を見比べているときだった.

鏡の下部分10 cmくらいのところに,帯状に貼り付けられている,あの広告.私が見比べていたのは,韓国系の教会の広告で,なぜわざわざ隣り合った鏡に同じものを貼るのだろう…?とふと疑問に思ったのだった.

右1/3に地図,左2/3に教会のしていることや電話番号.最初は同一に見えていた内容やレイアウトをよく観察してみると,違いが次々と明らかになってきた.
まず,大きい文字で書いてある教会のサービス?が,右のほうではひとつ加わって (「日本語礼拝」),4つになっている.左側は昭和を感じさせる手書き風のフォントなのに対して,右側のはヒラギノゴシックだろうか? 右側の地図には私も馴染みのある場所がいくつか見える一方,左側の地図には聞いたことのない場所が書き込まれている (「マンモス」ってなんだ…?).
これらを総合して,ふたつの広告は,貼り付けられた時期が違うのだろうという結論に達した.

そうして改めて地図をまじまじと観察したとき,「高瀬川」という文字を発見した.鴨川の隣にある,あの川.川底はコンクリートで固められ,あまたのゴミが浮かび,あるかなきかの流れがへばりついているような川! (散々な書きようだけど,私はそういう川が嫌いではない…!)

高瀬川と聞くと,四条のあたりの,柳が見下ろす街路と並走するあの川を思い浮かべる.それが下流の九条のほうではこんなふうになっていたのか…ちょっとした驚きだった.

おさる

突然「チンパンジーがネギ好きなんだ」と恋人からメッセージが来る.動物園で観察していた限りでは,タマネギは好きそうだったけど,ネギは食べているのを見たことがない.…ネギを食べさせちゃいけないペット動物もいたような…イヌだっけ.

そしてそんなことを言われたからか,昨夜の夢は,観察中の野生コドモオランウータンに抱きつかれた夢だった.家 (なぜか弟と二人暮らし) に帰ってみると,腕にもっと小さいオランウータンがくっついていて,母親の乳と間違って私の腕を吸っていた.はやく母親のもとに戻さなければ!と思うんだけど,外はもう暗闇で,吸われて痛いし,仕方ないから温めて殺菌して薄めた牛乳をスポイトで…と考えているうちに,どんどん衰弱していって,最後は小さくなったナメクジみたいになってしまった.

鴨川

冬とは思えないようなぬるい曇りの日,川岸を歩いて下っていった.

15:05 カラスが足を水につけて,川のなかに佇んでいる…そして行水.今日は暖かいからな…

15:09 白いサギが2羽,まったく同じ動作で川のなかをそろりと歩く.

15:10 イヌを抱えたおばさんが跳び石を渡ってきた.イヌを抱えながら散歩させる人を見ると,イヌの散歩とは…という疑問がいつも頭をよぎる.

15:11 カラスが30羽くらい旋回.あ,でもトンビかも? いや,カラスかな?

15:15 鴨が着水!ダイナミック! 波紋が広がる.

15:16 空がちょっとだけ青黒くなってくる.夕方から雨の予報だった.

15:18 対岸で数人が鉄の球を転がしている.あの遊びなんだっけ……ペタンク!

15:21 大きめのサギの首がにゅっと伸びてストっと縮まる.

モツ

銭湯に行こうと思ったものの,案外暖かくて,まあまた今度で良いか…とそのままスーパーに向かった.冷蔵庫のなかには訳あり品の割引で買った緑色のパプリカが入っており,これをなにかと調理して,翌日のお弁当のおかずにしたい.

スーパーでは,モツのパックが安くなっていた.スーパーに売っている臓物系に関してはあまり良い思い出がないけれど,スパイシーな味付けにして香りを消せば良いのでは…?と思いつき,またその安さにも惹かれて,購入してしまったのであった.

レバーと、あとどこかわからない部位がひとつ.冷たい水道水でよく洗って,食べやすい大きさに切る.おととい研いだ包丁がやたらとよく切れるような気がする.モツは生姜と日本酒に漬け込んで臭みをとって,唐辛子とニンニクをじっくり炒めたオリーブオイルに,クミンとカロンジも加えて,塩味をつけてカリッと焼く.そこに,一口サイズに切った緑のパプリカを加え,さっと炒めて,醤油やマレーシアの調味料で味をつける.パプリカは水気が出るから,吸い取るために春雨もちょっぴり入れて.

非常に良い匂いが部屋のなかにただよい,また,翌日のお昼も大満足の出来栄えだったのでした.ひとつだけ,口の中に3つできている口内炎が大いに悲鳴をあげたことを除けば…