よるのおわり

日々を愛でる

モツ

銭湯に行こうと思ったものの,案外暖かくて,まあまた今度で良いか…とそのままスーパーに向かった.冷蔵庫のなかには訳あり品の割引で買った緑色のパプリカが入っており,これをなにかと調理して,翌日のお弁当のおかずにしたい.

スーパーでは,モツのパックが安くなっていた.スーパーに売っている臓物系に関してはあまり良い思い出がないけれど,スパイシーな味付けにして香りを消せば良いのでは…?と思いつき,またその安さにも惹かれて,購入してしまったのであった.

レバーと、あとどこかわからない部位がひとつ.冷たい水道水でよく洗って,食べやすい大きさに切る.おととい研いだ包丁がやたらとよく切れるような気がする.モツは生姜と日本酒に漬け込んで臭みをとって,唐辛子とニンニクをじっくり炒めたオリーブオイルに,クミンとカロンジも加えて,塩味をつけてカリッと焼く.そこに,一口サイズに切った緑のパプリカを加え,さっと炒めて,醤油やマレーシアの調味料で味をつける.パプリカは水気が出るから,吸い取るために春雨もちょっぴり入れて.

非常に良い匂いが部屋のなかにただよい,また,翌日のお昼も大満足の出来栄えだったのでした.ひとつだけ,口の中に3つできている口内炎が大いに悲鳴をあげたことを除けば…

2016年に読んでおもしろかった本

今年は,論文を読んでばかりで,あまり本を読めなかった.来年はもっと読めると良いのだけれど…


バルガス・リョサ (木村榮一 訳) 『緑の家
複雑に絡み合って展開される物語のなかから,少しずつ全体像が見えてくる.まるで密林の茂った木々をかき分けながら目的地を目指すように.砂の降る明け方近くの夜の街のような重々しさがあると同時に,川をくだるように話が展開していくところもある.そうして,ところどころにはさまれる,すごく印象的な場面.素晴らしく素敵な小説だと思う.


柴崎友香きょうのできごと
特に何が起こるわけでもなく,ほんわりしたなんだか幸せな気分で読み終えられる.京都の鴨川のあたりの深夜の光景を想像して,ああいいなあ…と思った.


トーベ・ヤンソン (冨原眞弓 訳) 『誠実な詐欺師
北欧の,暗く寒く,しかし暖かくほっとする,不思議な雰囲気が,全体に漂っている.ひたすらかっこいいカトリ,雪解けとともに海の底に沈む家具や手紙,夜の森を駆ける狼のような犬…いろいろなイメージがあふれている.すごく良い.


河野裕子永田和宏たとへば君 四十年の恋歌
泣いた.でも,あぁいいなあ,短歌,つくってみたいなあ…と思った.

おほきな月浮かび出たり六畳に睡りて君ゐるそれのみで足る (河野裕子)

ムーアの一週間

その研究所のある一帯を,私はムーア (moor) と呼ぶことにした.一週間を通いつめて,実験やら測定やらをしていた.

最寄りの駅からはバスで20-30分,研究所の目の前のバス停は,終バスの時間が18時.それを逃すと,歩いて20分離れた病院 (別のバス停がある) まで行かねばならない.

18時をだいぶ過ぎて,暖かい部屋でこんこんと作業する静かな時間.病院の終バスに間に合うよう,ぐっと冷え込んだ外気にとび出して,暗闇の道を歩きながら,ムーアを越えて,病院へ.病院ではクリスマスのネオンが静かに光り,ロータリーの目の前には冷たい噴水池があった.数人の乗客は,バスの中で眠っていた.

なんだかとても幸せな一週間だった.

手袋の気分

冬に,とても寒い国に行くので,その準備をする必要があった.昨年その国に行ったときには,日本で使っている薄めの手袋が,たった1枚の布でしかないことを,冷たすぎて痛くなった指とともにまざまざと気づかされた.

先日,アウトドアショップで良さそうな手袋をみつけた.分厚い綿が入っていて,小さくたためば旅行かばんにもコンパクトに収納できそう.型落ち品のためすこし安くなっている.しかし,不幸なことに,その日はとても暖かい日だった.

今の自分の生活している周りが暖かいと,凍るような寒さの脅威があまり迫ってこない.その日は,ぽかぽかした陽気とともに,分厚い手袋はまた今度で良いか,と店をあとにしてきてしまったのだった.(そして翌日は木枯らしの吹く寒い日で,みつけた手袋を買わなかったことを後悔した)