よるのおわり

日々を愛でる

黄金

秋の落ち着かない雰囲気が好きではない.温度や光が,どこかぼんやりたそがれていて,夏や冬のような安定した空気に包まれている安心感がない.秋晴れの太陽の光も,そのあまりの疵のなさゆえに,よそよそしい気持ちになる.春は,ゆっくりだが着実に力強く活き活きと成長していくのに対して,秋は,そもそものはじめから,終わりに向かって消えていくだけのような気がしてしまう.

秋から逃げるようにして旅立った熱帯の国から帰ってきたその日,もう晩秋と言えそうな大学の廊下から外を見たとき,しかし,ふと気づいた.秋晴れの真っ青な空の下に,イチョウの葉が黄金色に燃えている.一瞬,ガラスに太陽の光が反射しているのかと勘違いするほどに輝いていた.イチョウの葉を経た光は,廊下の白壁をあざやかなオレンジ色に染めて,まるで,血の躍動する夕陽が射し込んでいるかのように.

それを見たとき,秋も,まあ悪いものではないかもしれないと,そんなことを思ったのだった.