よるのおわり

日々を愛でる

谷地

夜の農地を久々に歩いた。日中は半袖半ズボンでも汗をかくくらい暑いのだけれど、夜には涼しい風が吹いて寒いくらい。そういえば今夜は冷え込むという話だった。ときおりふわふわと飛んでくるホタルを探しながら、山に囲まれた谷地をぐるりと歩く。ウシもヒトも家のなかにひっこんでおり、車も通らない。川の水が流れる音と、カエルの声と、風が通り過ぎていく音。すこし曇った空を背景にして山の上に立つ病院や家の灯は、どこか遠い世界の光のよう。谷地から山を越えて抜けていく道路はないから、ここはふだんから、人の流れや活動のうえでよどんだ場所になっている。
家のすぐ裏手にあるのに、このすばらしい場所のことを知ったのはLが産まれてからだったことを思いおこすと、なんだかおかしな気分になってくるのだった。