南部を一周してきたのだった.
大きな道路は追い風ですいすい進み,ひめゆりあたりまでは快調に進んでいくも,その後向かい風となり,上り坂も多くて,脚力がどんどんなくなってしまった.久々に乗ったからな…
ところどころ立ち寄って,ガラスを見たり,てんぷらを食べたり,ヨモギを入れた100円のそばをいただいたり.曇りがちで,ときどき晴れて,快適な半日だった.
スクーターで走って帰ってくる途中に,なんだかいい匂いにあふれた通りに出くわした.住宅街の裏道,ほかに車はまったく走っていない.夕方のほの暗くなりかけた光のなかで,そういえば,道の両端の植え込みがぽつぽつと白い.よく見ると,葉っぱの小さな,あまり見かけない樹種に,小さな白い花がぶわっと咲いて,ずっとつづいている.
この匂い,どこかで嗅いだことがあるような….道の切れる最後のところで,やっぱりスクーターを引き返して,植え込みの花の写真を撮る.
こんなにいい匂いのする道を通ったんだよ,と妻にその写真を送って,ついでに,なんの花か訊いてみる.
「ジャスミンじゃないかな」
たしかに,たしかにそのとおり.ジャスミンティーに入っているあの白い花だし,あの強い香りも同じ.
私は,妻に,植物の名前を教えてもらうのが好きだ.
東京は,5月にしては記録的な暑さだったのだそうな.
痛いような陽射しがつくった陰に身を縮こめて,吹き抜けていく風に汗を乾かしながら,「どうして葉っぱはあんなに柔らかいのに,風に揺れて森がふるえるときには,あんなに乾いたサラサラする音が聞こえるのだろう…」と考えつつ,雑木林を通り抜ける金色の光が緑に染まっているのを見たとき,なんだか,圧倒的な爽快感が一瞬駆け抜けていって,生きていることがとても素晴らしいことのように感じられた.
あとから何度もその感じを思い出そうとしているのだけれど,こぼれたパン屑みたいなかけらしか,拾えていない.