よるのおわり

日々を愛でる

やすり

アンプルに入った試薬を使った.

試薬の箱を開けると,つるんとしたガラスで封入された瓶がでてきて,どうやって開けるのか,見当がつかなかった.というよりそもそも,哺乳瓶のような形をしたこの瓶がなんという名前なのかもわからなかった.

ガラス切りで頭部に傷をつけて指で押したりしてみたけど,ちっとも開きそうな気配はない.Web検索を駆使して,この瓶がアンプルなのだということと (ああなるほど),頸部にやすりをかけて頭部を押し切って開封するのだということを知った.

ハトロンやクラフトのような丈夫な紙に入った,小ぶりな定規くらいのサイズ・厚さの両刃やすりが実験室に置いてあって,このたび初めてそれを使った.頸部の線のところに刃を当てて,シャリシャリと傷をつけていく.ガラス切りではまったく手応えがなかったのに,やすりではガラスが削れるたしかな感触がある.そろそろ指で押したら取れるかなと考えていた矢先,頸部はぽろっと落ちた.

やすりは,泥棒や脱走者の定番アイテムだけれども,その威力を目の当たりにしたかたち.中学の美術や技術の授業で使っていた,ハンドルのついた目の粗く重いやすりには,愚鈍で乱暴な印象しかなかった.それが見事にくつがえされた.どうしてどうしてかっこいいではないか,やすり.

今年,コンパクトでシンプルなやすりを購入しようと思った.気に入るものを探すのだ.物欲なんて久しぶりで,なんだか愉快.