よるのおわり

日々を愛でる

夜の樹

寝ない児を抱っこして夜の道を歩く。明け方は真っ暗になるのだけれど、日付が変わる前の夜は、まだどことなく明るい。雲に街の灯りが反射しているのかもしれない。お墓(こちらのお墓は、私たちを威圧してくるような感じがなくて、守ってくれるような抱擁感がある)や樹々が黒いシルエットになって、闇の中に浮かびあがる。

街灯もない農道だから、何かあるように見えてもよく見えない。視界の真ん中に対象を置いて焦点をあわせても、なかなか見えなくて、意外と、視界の端っこでチラチラと見たほうが、その正体をつかみやすい。畠の向こうには白い、豚や山羊くらいの大きさのかたまりがあるように見えて、私が歩くのにあわせて動いているように見える。しばらく様子を観察して、畠の真ん中に置いてある表示板か何かに光が薄く反射して、そんなふうに見えているだけだとわかる。

体の前に抱いている人は、この世に生まれ出てからまだ2週間しか経っていない。細切れだけれど一日中よく眠るのは、胎内にいたときの大変さを回復しているのかななどと考える。まだ人間のような感じはなくて、オランウータンのアカンボウをあやしているような感覚なのだけれど、不思議なことに、この人の体温をお腹に感じているだけで、夜道もだいぶ心強い。

生後2週間といえば、江戸時代なんかでもまだだいぶ命のはかない時期だけれど、うまくいけば、この人にはこのあと何十年もの時間が残されているのだなと思い、不思議な気持ちになる。