よるのおわり

日々を愛でる

パンのおまけ

自覚はないのになんだか非常に疲れており、気持ちが上向かない。いつもいつも本当に足りない仕事時間を歯がゆく思いながら、やろうと思っていたことが中途半端のまま職場を後にして歯医者に向かう。その途中、翌朝のぶんを買っておこうとパン屋に寄り道。硬い皮をばりばりと食べたい気分だったけれどバゲットは売り切れ。しかたがないので、そのかわりに美味しそうなチーズとケールのハードパンなどを選ぶ。
お会計をしようとショーケースから目線をあげると、カウンターの奥に直径30 cm以上ありそうな大きなパンが置いてある。半分に切ってあり、断面から推測すると皮は硬そうで、中にはなにも入っていない素朴な雰囲気。まさにこういうパンが食べたかったのだ……とびびっときて、お店の人に「あれは何でしょうか…?」と聞く。
お店の人は「試作品の橙のパンです。柑橘の皮の酵母で発酵させたのです。食べてみます?」と答えてくれる。ぜひぜひとお願いをして、8分の1くらいにされたそのパンの、もっとも皮の分量が多い端っこの部分をいただく。値段を聞くと、試作品なので結構ですとのことで、何度か押し問答した後にありがたくいただいてしまう。
「皮の硬い素朴なパンが大好きなんです」と言うと。
「うれしい、私もそうなんです。でもよく売れるのはふわふわしたパンのほうで……」とのこと。
そのときは気分がすこし上向き、どこかこそばゆいような気持ちになって、お店を後にしたのだった。