よるのおわり

日々を愛でる

2022年

目標とするところにはぜんぜん届いていないのだけれど、仕事も生活も、あれこれ試して、いろんなことがあって、楽しく過ごした1年だったように思う。ちょうど1ヶ月おきに大きな仕事やイベントがあり、その1ヶ月間はその仕事に集中→次の1ヶ月はそのリカバリーで消費→すぐにまた次の大きな仕事、という感じとなった。2月はRの一時帰国、4月は5年越しの執筆、6月は一時帰国と調査、8-9月はアフリカ、10-11月はお客さんと学会。そのため、まとまった時間がとれず、長期的な視点に立った将来への投資ができていなかったようにも思う。けれど、楽しかったから、まあいいか。

特に発展があったのは予算申請。ひとつが通り、ひとつは一次選考を通り抜けた後の結果待ち (でもこちらはたぶんだめだな)。過去数年前からいろいろなスタイルを模索して実地に試しており、そのうちのひとつがうまく行きそうとわかった感じ。とはいえ、それによって幻滅している側面もあり、日本のサイエンスの現状を見て、ああなるほどと冷めた納得をしている自分もいる。この直感が正しいのかどうか、もうちょっと探索を続けてみたい。

4月にこちらの受け入れ研究者との面談をして、冬のあいだにふさぎ込んでいた気持ちが取り払われて勇気づけられた。9月には滞在が1年を切り、こちらに来ていることの意味を考え、そこに集中しようと心に決めた。もうあっというまに帰国の日が来てしまいそうだけれど、それまでになんとかしたいことが3つある。子供を育てながらの生活は本当に時間との闘いで、あれもしたいこれもしたいという仕事上の希望のなかから厳選してとりあげて、しかしそれすらも完遂させる時間がないというような状況。私生活上の希望はほぼかなえられていない。子供とのコミュニケーションでは自分の至らなさを痛感することばかりで、子育てに関しては落ち込んでばかりいた。できるだけ余裕をもって生活を送り、明るい気持ちでいたい。

欧州には冬にばかり来ていて、きちんと夏を体感したのは今回が初めてだったけれど、暗くて寒い冬 (それも好きは好きだけれど) との対比もあって、そのすばらしさが身にしみた。乾燥した適度な暑さ、20時を過ぎても明るい長い1日、夏休み気分のあふれた楽しい雰囲気、海、アイスクリーム、などなど。夏の休日にはいろいろなところに出かけて、休みを本当に満喫した。あんなに楽しい夏をもう一度過ごせると考えると、秋には帰国も控えているけれど、それだけでもうわくわくしてしまう。

今年はいろいろな体験をして人生の経験値も上がった気がする。念願のチェコに行くことができ、エストニアに友人を訪ね、氷の国をひたすらドライブし、念願の国際学会に子連れで参加し、アフリカの調査では人生観が揺さぶられた。円安に苦しめられ、家族でCOVID-19に罹患したりもした。デンマークでも日本でもアイコニックな銃撃事件が起こった。税金や銀行の手続きが完了して生活の基盤はやっと整い、今はぜひ語学を始めたいと思っている。(けれど子育て中は無理だな…)

デンマークではすでにCOVID-19の存在は忘れられているようなところがあり、完全に「アフターコロナ」に移行している感がある (医療の現場ではそうでもないのかもしれないけれど)。第4回目のワクチン接種も一般人に対しては行なわないようだし、マスクをしている人をごくたまに見ると、「そうかCOVID-19のためか」みたいなことを思い出す。対面の会議やパーティも普通にやっているし、オンラインの良いところは取り入れて以前より利便性が良くなっている。このままCOVID-19が収束してくれると良いのかもしれないけれど、どうなるだろう。1年前は公共施設が閉まり、12/24に雪のなかワクチン接種に行ったことを考えると、だいぶ変化の速度が大きい。(この変化の早さが北欧の合理的な社会の原動力なのかもしれない)

そう、今年は、人生ではじめて、海外で1年間を暮らした年となった。仕事や日常生活は日本にいるときと同じようなものだけれど、社会の雰囲気や文化や食生活はけっこう違う。世界でもっとも先進的な北欧と比べてはいけないのかもしれないけれど、日本より社会が成熟していて合理的で、人にやさしい。空気や仕事の奴隷となることなく、みんな人生を楽しんでいるように見える。もちろん海外ではうまくいかないことも多くて、行き届いた医療やきめこまやかなサービスや物価の安さなど、日本の特徴ともいえる側面を再認識したりもした。けれど、そうした一見良さげな側面が何の犠牲のうえに成り立っているかを考えなければならないとも思う。日本がそうした側面ですばらしいのだとしたら、どうして、人びとは長時間労働に疲れ切って、民主主義に無関心で、人権をないがしろにしたりされたりし、ますます拡大していく格差のもとで低賃金を甘受しているのだろう。こちらで暮らし、Rとあれこれ議論していくうちに、日本に対しては悲観的なあきらめばかりが募っていき、自己中心的な考え方をとるなら、帰りたくないなという気持ちが強くなっていく。

とはいえ、どんどん暗くなっていく政治や経済の状況はさておき、すくなくとも自分の専門とするところでは (ありがたいことに) 日本でするべき仕事が控えており、やるからにはしっかりやっていきたい。いや、やっていくぞ。