よるのおわり

日々を愛でる

ホリデーホーム(中編)

次の日は曇りがち。北の端のグレーネンを人の少ない朝の時間帯のうちに攻略する計画。すこし遅くなってしまい、8時半の電車に自転車を詰め込んで出かける。スーパーでLのためのパンを買い、自転車を漕いで先端部まで。砂浜は人も少なく(それでも冬よりは多いかも?)、冬のときのように歩きと寒さで体力が削られていた場合よりはずっと楽に歩くことができた。曇っていて風が冷たく、半ズボンに裸足になっていたこともあってどんどん寒くなってくる。それでもなんとかがんばり、ほかにあまり人のいない状態の先端部に9時過ぎに到達。グレーネンアタック成功。写真を撮り、海に少し足を浸し、すぐに戻り始める。

次は灰色灯台まで。冬には閉まっていたけれど、夏なので登れるようになっており、小さな博物館で展示もしている。砂についての特別展で、手作り感にあふれてこじんまりしていながらも視点がとても良く、センスがあり、非常に楽しめる。居間風の休憩室で大画面の動画を見て、この辺りの砂丘の成り立ちや自然について学びつつ、冷えた体を温める。休憩室には、家の庭に群生していた紫の花が活けてあり、Rが受付のお姉さんに尋ねると、ヘザーという植物であることがわかる。その後、丸い螺旋階段の灯台に登り、上からあちこち眺めると、グレーネンにはトレーラーが到着しており、遠目からでも明確にわかるほどたくさんの人がいた。早めの時間帯に行って良かった。灯台に登るたび、途中の窓から見える濁った外の景色が本当に美しいなと思う。

だいぶ時間が経ってお腹が空いたこともあり、灯台に併設のレストランに行ってプレートとコーヒーを頼むと、コーヒーは浅煎りの酸味が強い豆を風味良く淹れたもので、プレートはシンプルな素材を今まで食べたことないような味に仕上げたすばらしいものだった。お値段こそデンマーク価格だけれど、この味でこれなら十分満足。お皿に残ったソースが美味しすぎて、追加でサワードウパンを頼んで(そのままで食べてもとてもおいしかった)すくって食べてしまった。お店は漁師小屋をレストランに改装したような作りで、キッチンとダイニングはつながっていて、厨房の様子が直接見られるのも楽しい。店員さんもやさしく、暖かく、すばらしいところだった。

お腹も満たされたところで、自転車に乗って出発し、白色灯台へ。こちらも夏は内部に入れるようになっており、正方形の踊り場が複数続くようなおもしろい内部を上がっていく。内部の広さを活かして作家の個展をしており、気に入ったものは買って帰れるようになっていた。頂上は眺めが良くて、Skagenの街が向こうに見え、冬に見に行った古い灯台も見下ろせた。
こちらを出てまた自転車に乗り、西側の新しい灯台へ。だいぶ暖かくなっている。アクセスが悪く、たどり着くためには徒歩で平原を越えないといけないもよう。デンマークには珍しく蚊が群がってきたため、キリの良いところまで行って引き返してきた。
その後駅前に移動して買い出しをして、電車に自転車を乗せて帰宅。家ではポップコーンを作ったような気がする。(うろ覚え)

翌日は、最寄りの街でレンタカーを借りて南西のほうに行く。毎晩、翌日の天気予報とにらめっこし、これはいけそう、と前日に予約した。
多少ゆっくりめに家を出て、電車に30分間乗ってフレデリクスハウンまで。そこから20分ほど歩き、指定のガソリンスタンドへ。行ってみると併設の事務所は開いておらず、電話をすると口頭で指示されて、キーボックスを開けて鍵を受け取った。あとで契約書送るよ!といったことを言われるもの、返却後までも案の定送られてこらず、しかしデポジットも追加料金もかからなかったのでよしとする。
電車に乗って出発すると雨。途中けっこう強く降ったりもしつつ、農地となだらかな丘を越えて最初の目的地のHirtshals灯台に到着。この灯台はふたつの建物に挟まれている。居心地の良いカフェで、手作りのおいしいケーキとおかわりを入れてくれるコーヒーで休憩し、Lにお昼を食べさせたりしたあと、灯台に登る。ここも螺旋階段が美しく、上からは北海がきれいに見渡せた。灯台を降りて下の浜辺を散策。第二次大戦のときの戦争遺構が残っており、不思議な雰囲気。浜辺に降りると、波が砂浜でぶくぶくと泡立ち、強い風に吹かれて波の花が飛び散っていた。飛んでくる波の花を踏んで捕まえる遊びなどにしばし熱中。

灯台を出て次の目的地まで。大人はおなかが空いてしまい、どこかお昼を調達したいものの良い場所がない。途中の芸術の街は狭い路地に観光客が溢れ、スーパーにも車を停められなかった。いろいろ考えて、すぐ近くの目的地にもう行ってしまった。

ここRubjerg Knude灯台は、北海が砂丘を飲み込んでいく崖の上にある。波が毎年数メートル土地を侵食しており、灯台が海に崩落するのを防ぐために、2019年に内陸に70メートル移動させる大工事が実施されたそうな。灯台としての役目はけっこう昔に終えていたようだけれど、カフェになったりインスタレーションが施されたりと、なにかと親しまれているらしい。駐車場から1 kmほど歩くと砂丘に到達し、その先端に灯台が建っている。観光客もけっこう多かったけれど、砂と空しか見えない砂丘に突如として四角い灯台が現れ、その先に海が見えているさまはなんだか非現実的だった。
風は弱い日だったけれど、ときたま砂が風で吹きつけられて目に入ったりし、急いで内部に入った。内部にも砂が降り積もっており、壁やインスタレーションの鏡は砂で細かく傷つき、砂があらゆるものを荒廃させていくさまをまじまじと感じた。上に登るとずっと遠くまで見渡せて、強い風に吹かれて、北海の荒波が砕ける光景が広がっていた。
灯台を降りて崖のきわまでいくと、かつてあったと思われる場所に基部の残骸が残っており、建築資材の余りと思われるレンガで人びとは地上絵みたいなものを思い思いに残していた。砂丘の崖の端には柵も何もなく、足を滑らせると海が砂丘を飲み込む浜辺まで数十mほど滑り落ちていってしまいそうだった。砂丘を出て駐車場まで戻ると、髪の毛やら服やらあらゆるところから砂が出てきて、その場ではまったく落としきれなかった。

その後車を走らせ、近くの大きめの街へ。公営駐車場に車を停めて、街に繰り出し、ベトナム料理のお店でテイクアウト。待っている間にLを連れて街の探索。目抜通りは人通りが少ないものの、子供の遊び場がいたるところにあってすばらしい。小さな川も流れていて美しい。食べ物は比較的安く、本格的でおいしかった。
食後にRも一緒に歩くと、街には新旧が混在していて変な感じ。さっきのベトナム料理やおいしそうなカフェはとても新しくて洒落ているけれど、くすんだ建物も多く、そうした建物の多くはテナント募集になっている。中庭のような裏道に行くと、どことなく昭和の雰囲気の漂う光景が広がっていた。後ほどWikipediaで見ると、けっこう古い街らしく、再生や人口増のための取り組みが行われていてその一環なのかなという気がした。

車に乗って戻り、フレデリクスハウンまで。Lは眠ってしまい、長い距離を歩くのは大変であろうということで駅前でふたりをおろし、自分は朝方のガソリンスタンドまで車を戻して歩いて駅まで帰ってきた。スーパーでささやかな買い出しをして18時過ぎの電車に乗り、家では簡単な夕食を食べて眠った。このすばらしいお休みが実質あと2日というのはなかなか信じられない。

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