よるのおわり

日々を愛でる

アルコール

蒸し暑い森のなかの昼過ぎ,虫除けを顔に塗り,さて午後もがんばろうと思ったとき,揮発したエタノールの強い匂いが鼻に達した.そのとき,強いお酒を少しやりたくなった.気つけや強壮にお酒を飲むというのは,もしかしたらこういうことなのかもしれないと…

黄金

秋の落ち着かない雰囲気が好きではない.温度や光が,どこかぼんやりたそがれていて,夏や冬のような安定した空気に包まれている安心感がない.秋晴れの太陽の光も,そのあまりの疵のなさゆえに,よそよそしい気持ちになる.春は,ゆっくりだが着実に力強く…

「半」という概念がおもしろい.マレーシア語では"setengah"という言葉がそれに該当して,たとえば"jam tuju setengah"は「7時半」,"dua ringgit setengah"は「2.5リンギット」ということになる.時間やお金のという異なった単位においても,「半」という概…

ホットコーヒー

だいぶ寒くなってきた見慣れぬ街を抜けて,単線の電車に乗り込む.乗客はほとんどおらず,まあいいかと思って,朝作った,バゲットのサンドイッチを頬張る.香ばしくて硬くておいしい.しかし口の中が荒れる.大きな乗り換え駅について,次の電車まで15分ほ…

オレンジの日

敷布団が硬くてあまり寝付けなかったけれど,とにかく山小屋で目覚めた.外ではすでに焚き火がたかれていて,お湯も湧いている.ありがたい,ありがたい.川で顔を洗った後,秋の朝日が射し込む木立のなかで,コーヒーを淹れて飲んだ.なによりもこれがいち…

夜のお茶

寝る前に,お茶でも飲みながら本でも読もうかと思って,お湯を沸かす.しかし,お湯が湧くあいだに眠気がだんだん幅を効かせてきて,布団に潜り込みたくなっていく.お湯が湧いた頃には,お茶を飲んでゆったりしたい気持ちよりは,眠りたい気持ちが大きくな…

真珠

向こうの席に座っている人がカバンから何かを取り出したひょうしに、何か丸いものが床に落ちた。コロコロ転がっていったそれを見つめたその人は、拾い上げるでもなく、駅で降りていった。 あとに残されたそれは、電車の発着にあわせて前へ転がり後ろへ転がり…

月が真ん丸で煌々としていて、駅から出てきて森のなかを歩いているとき、街灯に照らされた影と、月に照らされた影と、両方とも私についてきているのがわかった。空気も比較的ぬるくて、月の光が暖かいような気になってしまう。 こんなところに場違いな印象を…

ゼリー

風邪をひいていたときに、食欲がなくなることを危惧して、カップゼリーを買っておいた。しかし、幸いにして食欲がなくなることはなく、ふたつのゼリーは冷蔵庫のなかで冷えながら夏の終りの1ヶ月を過ごしていた。 ちなみにカップゼリーはだんぜんナタデココ…

白い犬

家のなかにはたくさん動物がいて,もう真夜中なので,毛布にくるまったり,ぐしゃぐしゃと積まれた服の山に頭を突っ込んだりしている.寝ないで動き回っているものにはドウドウと睡眠をうながし,もう眠ってしまったものは起こさないように…! みんなが眠っ…

雨あがる

ここ最近あまりにも毎日雨が降ってばかりいたせいで,晴れているという状況が物珍しいように感じられてしまった.言ってみれば,普段とは逆に,雨が降っているとなんとも思わないけれど,晴れていると「おっ,今日は晴れか…」とあらためて気づくような.ここ…

凝視

以前,こんなことを書いた.同様のことが今読んでいる本に出てきたのだった. Business being over then, the Old Man turned his attention to me. Natives can stare and yet not be rude. I do not know whether this contradiction is in the quality of…

墨汁

夜中,カンカン線路を叩く音が少しだけ開けた窓から漏れ聞こえて,そのせいなのか知らないけれど,眠りが浅かったような気がする.初秋の冷たい空気が,音と一緒に入り込んできていた.朝,目が覚めたら,論文の査読結果が返ってきていて,ひとまずrejectで…

魔法

早朝の街は3割増しくらいになる. ぼんやりした灯りに照らされた幻想的な路地がちらりと見えたり,暗闇のなかでどこからか銀杏やお香の匂いが漂ってきたり,ふと袋小路に迷い込んで「こんなところがあったのか…」と戸惑ったり.今朝は,折れた先の道が急に石…

茄子の煮浸し

この世の中に茄子というものが存在していて本当に良かったと思う.いつもはトロトロになるまで炒めて食べるのだけれど,今回はたまたまみつけたこの記事に触発されて,はじめて煮浸しを作ってみた. 甘長唐辛子と炒めたあと煮込んで,油揚げはなかったので省…

何か果物みたいなものを食べていた.そのボリュームのほとんどが種で,噛み終わったガムみたいに,口のなかを虚無が浸していく.BB弾くらいの大きさの平たい種をたくさん,べえーっと舌に乗せて,げんなりしながら吐き出す.そんな夢を見た.

9月10日

9月10日,朝早くに目が覚めてしまい,まだ暗いなかを大学へ向かった.玄関から一歩踏み出した瞬間に,この日を境にして,夜はもう秋に変わってしまったのだということを理解した.ふだん通らない道を行き,普段は見ない街の横顔を見た.

秘すれば花

本当に大切なことは自分の内側に留めておかなければならない、私の場合。口に出して人にそれを言ってしまうと、そのことだけでもう何かを成し遂げたような気になって、ふんばる力がなくなってしまう。 自分の夢を常日頃からまわりに喧伝しておくと、まわりの…

夜の音

夜の音は漠としてあやふやである。 秋の気配がちらちらと見えかけてきて、夜には虫の声が聞こえるようになった。では、他の季節はどうだろうと考えたところが、思い出せない。真夏にはセミの大合唱が聞こえていたような気がするけれど、それは昼間のことであ…

天気の変化

朝、蒸し蒸しと重たい空気を縫うように、まだ暗いうちから職場にでかけた。重たい雲が空を覆っていて、職場について少しすると、ざーざーと雨が降ってきた。 ときどき雷鳴がして、暗い赤銅色の空から湿った風が吹いてくる。朝なのにずいぶんと暗い。雨は昼前…

麦もち

ふと通りかかった和菓子屋で、「麦もち」というまんじゅうが目に入った。買ってみる。 家に帰って、おやつがわりにぱくつきながら、どうして「麦もち」なのか考える。中身はつぶあん、それを包む皮は酒饅頭の皮をもっと薄くしてハリハリとしたような感じ。よ…

水の冷たさ

もうけっこう前のことだけれど,早朝,みたらし祭に.5時半に門が開いて,一番に入っていく.早朝だけあって,人は他に数人.広々としている.早朝だけあってか,水がとにかく冷たい.もはや,冷たいというより,痛いという感じ.5分と足をつけていられなく…

夏風邪

しばらく夏風邪をひいていた.全身がだるく,節々が痛くて (手首まで痛かったのなんて初めて!),頭の血が沸騰してジュージューいっていた.しばらく寝たあとに起きあがろうとすると,体がかちかちに固まっており,這いながらトイレに行くようなありさまだっ…

会釈

言葉の通じない異国の青年男性と、心を通じあわせるとまではいかなくとも、お互いに相手のことを認識していて敵意はないことを示すときに、よく、ほとんど真顔で顎をくいっと動かす動作をされることがある。感覚的には、東南アジア圏の人に多い印象。相手か…

エンスト

こちらに戻ってきて、久々に山を走った。途中、水の減りがあまりにも早く、体温も上がってきたので、どこかで猛烈に水をかぶりたい気分になる。水…水…探しながら走る。そうして運良く蛇口をみつけて、頭から水をかぶる。ふはー、気持ちいい。ふと気づくとす…

ウミウ

ウミウが飛んでいくのを見た.海面をばたばたばたと,飛行機がとびたつときのように一直線に進んでいく.そうして,離陸して,海面すれすれをずっと遠くまで.どこまで飛んでいくのかしばらく見守ってみた.豆粒くらいの大きさになって,米粒くらいの大きさ…

猫の散歩

同じ方向に歩いている若い女の人が,首輪をつけた犬を連れている.と思ったのだけれど,犬にしてはやたらとシュッとしていて,歩き方も蛇行して頼りない.よくよく見てみると,猫である.毛並みの長い,茶色い猫.道路の反対側に,向こうから歩いてくる若い…

海の朝

海の上に浅瀬みたいなところができていて、銀マットが敷かれていて、何人かと飲み会みたいなことをした後に、その上で寝たのだった。海風が気持ちよかったような気がする。 早朝、なんとなく目が覚めて、そこは依然として海の浅瀬の上の銀マットであって、私…

替芯

シャープペンの芯が折れてしまって,かちかちノックしても新しい芯が出てこない.おや…と思って蓋を開けてみると,中の芯もぼきぼき折れて短くなってしまっている.替芯のストックは数カ月前から切れたままで,新しいものを買わなければ…と思いつつ,なんだ…

鷲峰山

普段は京都の北山ばかり走っているけれど,たまには気分を変えて南のほうに行ってみた.ルートはこちらを参考に.山に入るまでは,普通に車が走っている道を行くことになり,ちょっと大変.瀬田川沿いが,のどかな川岸と京阪の小さな線路が並走していて,初…

昼の夢

睡眠時間が短いと、その翌日なにもできなくなり、強力な眠気に押し倒されるようにして、昼寝をすることになってしまう。2時間ほどのあいだに脈絡のない夢がつづき、丘の街の迷路のような階段坂を駆けおりて家に帰ったり、別な大学の院生であったり、恋人と人…

ナスと油揚げ

干からびそうなナスを冷蔵庫から発見して,これで夕飯のおかずを一品増やそうということに決まった.ガレットを作ろうとして,しかし面倒で結局つくらなかった余りの油揚げが,ちょうどよく冷凍されており,半分だけ取り出してきた.短冊に切ったナスをレン…

スーパー

最初に見えたのはタコ焼きだかタイ焼きだかの屋台で、ほう、こんなところに…と目を向けたのだった。いつも通る道を、いつもより遅い時刻、家に帰っているときだった。そうして目を向けた先の、ちょっと奥に、まばゆく灯のともったスーパーがあったのだった。…

手作り市

早朝,職場に来る途中,お寺の前に車がズラッと停まっていて,ああこれはもしかしたら…と調べたところ,前から行きたいと思っていた手作り市であった.8時からやっているそう.ベーグルのお店なんかもあるのね,ふむふむ.そうしていそいそとでかけていって…

朝の音

朝に聞こえる音,というものには,場所によって個性がある.以前,博物館にいたときには,近くの警察署で剣道だか柔道だかの朝稽古をする声が聞こえてきた.前を通りかかって,最上階がワンフロアまるごと道場みたいになっているのを見て,それと知った.そ…

水増しラタトゥイユ

悲しい気分なのでラタトゥイユを作ることにした。 ラタトゥイユにおいて、ズッキーニやパプリカはスターである。スーパーにそんなに置いておらず、お値段も高め、しかしめっぽうおいしい。これらなしではラタトゥイユは成立しない。 大きくておいしそうなズ…

賀茂茄子の錬金術

茄子の季節がやってきた。そして折よくスーパーに値下げ品の大きな賀茂茄子をみつける。ソフトボールよりも大きい!もちろん迷いなく購入である。 2 cmくらいの厚さに切って、表面に、パジルペーストの上澄みのオリーブオイルを塗る。バジルペーストは、昨日…

春雨サラダ (エスニック)

夕ごはんがなんだか物足りないにもかかわらず,すでにめぼしい食材は冷蔵庫にない.どうするか…?そう考えて台所を見回したとき,先週買い置いた春雨が目に入った.そうだ,春雨サラダにしよう,エスニックなやつ.そしてそのためにはピーナッツがあるとうれ…

ミル

粒胡椒を挽くとき、ミルを持つ手のひらが熱くなるような気がする。摩擦熱で本当にミルが熱くなっているのか、私の手のひらが熱を帯びるだけなのか、よくわからない。

不可侵

膀胱がいっぱいになって、ふと目が覚めて、やれやれと半分眠ったまま起き出すとき、わずかに雨が降っているようで、ときたまポツンと音が耳に届いて、しかし外を確かめることはせずに、廊下の時計の文字盤は真っ暗で見えず、スマートフォンの電源も入らない…

ツツジ

パンに胡椒をふりかけて,曲面から粒が滑り落ちていったり,傘のなめらかな布の表面が,水滴をいくつか保ちつつも,大きいものはこぼし落としたり.ツツジの表面にポツポツとピンク色の花が咲き乱れ,株の下には落ちた花がいくつか.その様子を見て,パンや…

やさしさ

無気力も倦怠も不安も、包み込んで、いつか眠気の向こうへと放り投げてしまう。夜の闇とは、とてもやさしいものだと思う。

サンドイッチ

サンドイッチは楽しい。 前日にパン屋さんで8枚や10枚切りの食パンを買ってきて、翌日は早起きして、サンドイッチ作りにとりかかる。 表面を軽く焼いて、バターを薄く塗り、柚子胡椒を塗った鶏ハムを乗せる。パンの耳なんか気にしない。あれば、レタスやトマ…

雪の朝

いつものように暗い冬の朝、雪はあいもかわらず降りつづく。*という書き出しの一文で、梅雨のような街並みの見える車窓から、私は一瞬にして、フィンランドの静かな暗い朝に飛んでいた。ああ、読書ってすごいなと思う。* トーベ・ヤンソン『誠実な詐欺師』

カレー、カレー

帰国して,日本のカレーをむしょうに食べたくなった.なぜかは知らないけれど,カレーである.「カレー」という言葉が脳内に現れたとき,私はもうその魅力に抵抗するすべを持たなかった.お昼に,机の中をあさってみた.賞味期限の切れたレトルトのお米と,…

着陸

乗り換え先の空港に飛行機が着陸していくとき,その途中の夜中の街の灯を眺めるのが好きだ.街灯がまばらに照らす道路に,ポツポツと走る自動車はどこに行くのだろうか?誰が乗っているのかな?深夜の家路を急ぐ車かもしれないし,早朝の職場に出向くところ…

水曜日

もし時間があれば、今年はじめての自転車乗りに行きたいななんて考えながら、寝入って、明け方、マラソンをする夢を見た。まあ当然、乗りに行っている余裕もなく、すこし肌寒い見事な春晴れのなか、職場でお仕事を少しずつ進めていく。そのかわり、少し早め…

犬の名前

駅からの帰り道で,追い抜きざまに,真っ黒のモップみたいな犬を連れた夫婦が,話す.「カラスがハトを食べるって!?それは大変なことだなあ…」慌てて振り向いて,もしかしたらその黒い犬は「カラス」という名前なのかもしれない.そうであれば,たしかに大…

夜中の腕

ふと目がさめて、左腕の感覚がない。体の下に敷いてしまい、血が止まってしびれてしまったのだろう。右手で持ち上げて、顔の上に置いてみる。ぐにゃぐにゃとした熱い蛇のよう。夢に紛れて消えていく、夜中。

最初の雨

アスファルトに落ちてきたごく最初のほうの雨が,弱い光に照らされて光る.……まるでガラスが割れて散らばっているみたいに.